あれはカラッと晴れた、気持ちの良い秋の日でした。ベランダいっぱいに干していた洗濯物がよく乾いていたので、私は鼻歌交じりでそれを取り込んでいました。厚手のバスタオルを畳んでいた、まさにその時です。タオルの間から、もぞもぞと何かが動く気配を感じました。何だろう、とタオルを広げた瞬間、一匹のアシナガチがブン、と鈍い羽音を立てて飛び立ち、部屋の照明に向かっていきました。私はその場で凍りつきました。さっきまで私の指先数センチの距離に、あの蜂が潜んでいたのです。幸い刺されることはありませんでしたが、心臓はバクバクと音を立て、全身から冷や汗が噴き出しました。すぐに部屋の窓を全開にし、電気を消して蜂が自然に出ていくのを待ちました。幸い、数分後には蜂は無事に外へ飛んでいってくれましたが、私の恐怖はそれだけでは収まりませんでした。なぜ蜂が洗濯物に?考えてみれば、その日使っていた柔軟剤は、花の香りが強い、少し甘めのタイプでした。蜂はその匂いを、本物の花の蜜の香りと勘違いして引き寄せられたのかもしれません。あるいは、単に暖かいタオルの上で日向ぼっこをしていただけなのかもしれません。いずれにせよ、外に干した洗濯物という日常的なものが、いとも簡単に危険な生物を家の中に招き入れてしまうという事実に、私は愕然としました。この経験以来、私は洗濯物を取り込む際には、必ず一枚一枚、パンパンと強く振ってから畳むようにしています。特に、タオルのように厚手で、虫が隠れやすいものは念入りにチェックします。また、蜂の活動が活発な季節には、香りの強い柔軟剤の使用を控えるようにもなりました。ほんの少しの注意を怠っただけで、家の中が危険な空間に変わりうる。あの日のアシナガバチは、私にその教訓を身をもって教えてくれた、忘れられない教師となりました。